大阪地方裁判所 平成9年(ワ)11822号 判決 1999年2月26日
原告
武田淳一
被告
伊奈鶴夫
主文
一 被告は、原告に対し、金九八一六万六八三二円及びこれに対する平成七年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その二を原告の、その余を被告の負担とする。
四 この判決は、一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金一億六〇八二万三五〇六円及びこれに対する平成七年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1(本件事故)
(一) 日時 平成七年一月三一日午後四時一五分ころ
(二) 場所 大阪府守口市大日町四丁目五七番地府道大阪中環状線
(三) 事故車両 (1) 被告運転の普通乗用自動車(京都五〇そ八〇九五)(以下「被告車両」という。)
(2) 原告運転の自動二輪車(なにわら八三一〇)(以下「原告車両」という。)
(四) 態様 被告が片側二車線道路の左側車線を進行中、右側車線に進路を変更したため、右後方を進行してきた原告車両が急制動の措置をとり転倒した。
2(責任)
(一) 根拠
自動車損害賠償保障法三条
民法七〇九条
(二) 具体的事実
(1) 被告は被告車両を運転していた。
(2) 被告は、右側車線に進路を変更するに当たり、右後方から進行してくる車両の有無及びその安全を確認して進路を変更すべき注意義務があるのにこれを怠った。
3(傷害)
(一) 原告(昭和四九年一〇月二三日生)は、本件事故により、頸髄損傷、両上下肢麻痺、右肘挫創、第五、第六頸椎骨折の傷害を負い、次の期間入院した。
(1) 摂津ひかり病院
平成七年一月三一日から同年二月六日まで
(2) 大阪府立病院
平成七年二月六日から同年四月一三日まで
(3) 星ケ丘厚生年金病院
平成七年四月一三日から平成七年一二月一六日まで
(二) 原告は、平成八年二月一日、症状固定し、後遺障害等級一級八号と認定された。
4(損害)
(一) 入通院関係 八三四万二七一三円
(1) 付添費用 二七〇万一一九一円
<1> 職業付添人 五八万二一九一円(四一日間)
<2> 母親 二一一万九〇〇〇円
6500円×326日=211万9000円
(2) 入院雑費 五一万三八〇〇円
1400円×367日=51万3800円
(3) 装具費 三四万三〇〇一円
(4) 慰謝料 三〇〇万円
(5) 休業損害 一七八万四七二一円
14万5885円÷30日=4863円
4863円×367日=178万4721円
(二) 後遺障害関係 二億一二三八万一一五一円
(1) 逸失利益 七二三〇万八六七一円
<1> 平成七年賃金センサスによる年収
20万8400円×12か月+53万3300円=303万4100円
<2> 逸失利益
303万4100円×23.832=7230万8671円
(2) 介護費用 九七〇七万二四八〇円
原告は、移動は車椅子を使わなければならず、車椅子に乗るときと降りるときは介護が必要である。
食事は手に装具を付けてフォークで行い、食事の準備、後かたづけは介護者が行う。
入浴は、介護者が介護して洗ってもらい、体を拭いてもらわなければならない。
排便も自分で行えないため、介護者が指もしくは器具を使って機械的に排出させる他なく、一回に要する時間は二時間であり、三日に一回排便する。
ベッドから転落すると、一人では起き上がれないため、介護者が来るまでいつまでも床に転がった状態でいることになる。
1万円×365日×26.5952=9707万2480円
(3) 家屋改造費 一三〇〇万円
Ⅰ 平成七年一〇月分
<1> 仮設工事 五万円
改造に伴う墨だし、仮設電気、水道他
<2> 基礎工事 一九万円
浴室改造に関する基礎等
<3> 解体工事 五一万円
和室、ユニットバス、リフト部、玄関他
<4> 木工事 一三四万円
改造に関する使用木材、工賃
<5> 電気工事 一八六万一〇〇〇円
改造においての撤去、新設工事
<6> 内装工事 三二万円
改造に関する仕上材
<7> アルミサッシ工事 一一七万七〇〇〇円
玄関入口、浴室入口を車椅子出入り用に改造
<8> 金物工事 一六万五〇〇〇円
改造に関する金物及び身障者用手摺
<9> 左官工事 三八万五〇〇〇円
外部、浴室下地工事
<10> 塗装工事 一二万円
外部、内部ペンキ仕上げ
<11> タイル工事 三九万四〇〇〇円
浴室、玄関、仕上げ補修
<12> ガス工事 五万円
浴室改造に伴う移設
<13> 木建具工事 四六万円
内部入口ドア(車椅子通行幅)
<14> 水道工事 三四万九〇〇〇円
浴室、和室改造に伴う移設及び新設工事
<15> 住宅機器設備 一三〇万二〇〇〇円
洗面台、便器、浴槽(身障者用)、給湯器
<16> 雑工事 二六万円
改造に関するその他雑工事
<17> 身障者用機器 二九六万円
一、二階車椅子用リフト、玄関段差解消装置
<18> 美装工事 七万円
洗い仕上げ工事
<19> 諸経費 五〇万円
以上合計一二四六万三〇〇〇円
Ⅱ 平成八年一一月分
<1> 車椅子飛出防止用カーゲート材一式 二三万円
<2> 車椅子用玄関スロープ(アルミ製別注) 四万五〇〇〇円
<3> 汚物洗い器用カバー(アルミ製別注) 三万四〇〇〇円
<4> 天井走行用リフト 九五万円
<5> 吊り具及びレール一式 四六万円
<6> その他部材 九万五〇〇〇円
<7> レール及び本体取付工事 三〇万円
<8> 搬入、諸経費材工一式 一五万円
<9> 介護用物入れ材工一式 一〇万円
<10> 身障者、介護人連絡用インターホン 四万円
<11> 天井補強及び修理(天井リフトのため) 二三万円
<12> 諸経費 八万円
以上合計二七一万四〇〇〇円
Ⅲ 総合計一五一七万七〇〇〇円のうち、一三〇〇万円を請求する。
(4) 慰謝料 三〇〇〇万円
(三) 弁護士費用 七五〇万円
被告の負担すべき弁護士費用は、右損害額から既払金六七四〇万〇三五八円を控除した残額一億五三三二万三五〇六円の約五パーセントに当たる七五〇万円が相当である。
合計一億六〇八二万三五〇六円
よって、原告は被告に対し、自動車損害賠償保障法三条及び民法七〇九条による損害賠償請求として、金一億六〇八二万三五〇六円及びこれに対する本件事故の日の翌日である平成七年二月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1は認める。
2 同2、3は認める。
3 同4(一)のうち、(1)ないし(3)、(5)は認め、(4)は争う。
同4(二)は争う。
同4(三)は知らない。
三 抗弁
1(過失相殺)
(一) 本件事故当時、雪のため、右側車線、左側車線とも渋滞中で、赤信号で全車両が停止していたが、青信号になったので、全体がゆっくりと前進し始め、入澤車両も時速三〇キロメートルくらいで走行していたところ、右側車線の後方を走行していた大型トラックが発進の遅れのためか、前の車両との車間距離がかなりできていたため、入澤車両の直前を走行していた被告車両が右側車線に進路変更をした。
(二) その直後、右側車線と左側車線との間のライン上を走行して入澤車両を追い抜いた原告車両が右側車線に入り、その直後ブレーキをかけバランスを失い、倒れながら前を走行していた被告車両の右後ろに衝突し、その後も原告車両と原告が一緒になって右前方へ滑っていき、欄干にぶつかった。
そのときの原告車両の速度な時速六〇キロメートルを超えており、ブレーキをかけた場所は橋のジョイント部分で金属製であった。
(三) 原告車両は、雪で滑りやすい道路状況において、時速六〇キロメートル以上の速度で、左右両車線の間のライン上を左右の車の間をすり抜けるように走行し、右側車線に入った直後にブレーキをかけ、バランスを失い倒れながら右前方へ滑走して、被告車両の右後部に衝突したのであり、被告にはどのような過失があるのか分からない。
(四) すなわち、進路変更車と後続直進車の事故と考える場合、後続直進の原告車両は、左右両車線の間を走行してきたのであるから、本件事故の位置関係は左右両車線の間のライン上付近でなければならない。
しかし、本件事故の位置は、右側車線の右端の方であり、これは本件事故が、被告車両が進路変更を完全に終了した後に何らかの理由によって発生したことを物語るのであり、その何らかの理由というのは、原告車両が右側車線に入った直後ブレーキをかけたことなのである。
当時、左右両車線とも渋滞中であったのであるから、被告車両は直前車両や左側車線の車両とほぼ同一の速度で走行していたことは間違いなく、本件事故直前に急ブレーキをかけたわけでもないのであるから、事故直後被告が何が起こったのか分からなかったのも無理はないといえる。
2(損害てん補) 六八二一万二七六七円
(一) 既払分 三八二一万二七六七円
(二) 自賠責保険金 三〇〇〇万円
(三) なお、治療費一四一万六二九〇円は右てん補金に含まれる。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は争う。
2 同2は認める。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 請求原因1(本件事故)、2(責任)及び3(傷害)は当事者間に争いがない。
二 請求原因4(損害)
1 入通院関係
(一) 付添費用 二七〇万一一九一円
当事者間に争いがない。
(二) 入院雑費 五一万三八〇〇円
当事者間に争いがない。
(三) 装具費 三四万三〇〇一円
当事者間に争いがない。
(四) 慰謝料 三〇〇万円
原告の傷害の部位、程度及び入院状況等からすると、原告の傷害慰謝料は三〇〇万円と認めるのが相当である。
(五) 休業損害 一七八万四七二一円
当事者間に争いがない。
2 後遺障害関係
(一) 逸失利益 七二三〇万八六七一円
原告は、平成八年二月一日、症状固定し、後遺障害等級一級八号と認定されたことは当事者間に争いがなく、証拠(甲一、乙一〇、一一、原告本人)によれば、原告は、第七頸髄節不全麻痺、第八頸髄節以下完全麻痺により、両手指機能はほとんどなく、知覚鈍麻、両下肢の用は全廃、知覚脱失の状態で、膀胱直腸障害によりカテーテルで自己導尿しなければならず、排便は自力ではできない状態であること、箸またはスプーンのいずれを用いても自力では食事をすることができず、自助具を用いてスプーンで食事をしなければならないこと、車椅子でのコンピューター操作は可能であるものの、指でのキー操作は不可能であることが認められる。
右の原告の状態においては、将来における就労の可能性はほとんどないと言うほかなく、労働能力は一〇〇パーセント喪失しているものである。
そこで、原告は症状固定時満二〇歳であり、平成七年賃金センサス産業計・企業規模計・学歴計男子労働者の二〇ないし二四歳の平均給与額が年三二五万六〇〇〇円であることからすると、基礎収入額としては原告主張の年三〇三万四一〇〇円、就労可能年数四七年として、新ホフマン式計算法を用いて原告の逸失利益の現価を算定すると、次の計算式のとおり七二三〇万八六七一円となる。
303万4100円×23.832≒7230万8671円
(二) 介護費用 六九八四万九五〇二円
前記認定の原告の後遺障害の状況によれば、原告は生涯介護が必要であると認められ、また、証拠(乙一の10)によれば、原告の母であり、原告を介護している武田ヤヨイは昭和二四年七月六日生まれであり、症状固定時満四五歳であり、平均余命は三九年であり、原告の平均余命は五七年であるから、原告の介護費用は、武田ヤヨイの平均余命期間である三九年間は近親者介護費用として日額六五〇〇円、その後の一八年間は職業付添人費用として日額一万円として算定するのが相当であり、右により介護費用の現価を算定すると、次の計算式のとおり六九八四万九五〇二円となる。
6500円×365日×21.309≒5055万5602円
1万円×365日×(26.595-21.309)=1929万3900円
(三) 家屋改造費 一〇〇〇万円
証拠(甲三の1、2、四の1、2、五、六の1ないし6、原告本人)によれば、請求原因4(一)(3)の家屋改造を行い、その代金として一二九〇万円を支払ったことが認められるが、本件事故と相当因果関係のある家屋改造費は一〇〇〇万円と認めるのが相当である。
(四) 慰謝料 二五〇〇万円
原告の後遺障害の部位、程度からすると、原告の後遺障害慰謝料は二五〇〇万円と認めるのが相当である。
3 以上を合計すると一億八五五〇万〇八八六円となる。
三 抗弁1(過失相殺)
証拠(乙一の1、6ないし8、11、17、18、二)によれば、本件事故現場は南から北に向かう二車線(一車線の幅員三・四メートル)道路であり、二車線とも渋滞し、降雪のため路面は濡れてたところ、被告は被告車両を運転して、西側車線を走行し、東側車線(右側)の前方に車両間の空間ができたため、右折指示器を出して、時速約四〇キロメートルで東側車線に進路変更をしたところ、後方より時速約六〇キロメートル(制限速度六〇キロメートル)で東側車線を走行してきた原告車両が自者(ママ)進路をふさがれたことから、急制動の措置をとったが間に合わず、被告車両の後部に衝突したこと、被告は進路変更に際し、後方車両の動静についての注意が十分でなく、原告車両には気がつかなかったことが認められる。
右に認定の事実によれば、本件事故の発生の主たる原因は被告にあるというべきであるが、原告にも車両が多数存在し、降雪のため路面が濡れ、滑りやすい状態であったのに時速六〇キロメートルの速度で進行し、前方車両の動静への注意が十分ではなかった点に過失があるというべきであるから、前記損害額一億八五五〇万〇八八六円及び既払治療費一四一万六二九〇円の合計額一億八六九一万七一七六円から一五パーセントを過失相殺すべきである。
右控除すると、一億五八八七万九五九九円となる。
四 抗弁2(損害てん補)(六八二一万二七六七円)
当事者間に争いがない。
前記一億五八八七万九五九九円からてん補額六八二一万二七六七円を控除すると九〇六六万六八三二円となる。
五 弁護士費用(請求原因4(三))
本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は七五〇万円と認めるのが相当である。
六 よって、原告の請求は、金九八一六万六八三二円及びこれに対する本件事故の日の翌日である平成七年二月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、右限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行宣言について同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉波佳希)